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2009年6月28日

木下美明TMG副社長会見---迷走しつづけるF1のレギュレーション

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結果として、FIA(国際自動車連盟)のマックス・モズレー会長が折れたことで"収束"を迎えたバジェットキャップ問題。しかし、ことは単純な予算がどうこうではないところに根付いていたことを伝えるコメントである。トヨタF1の前線基地であるTMG(トヨタ・モータースポーツ有限が車)の木下美明副社長が、解決の前周週の金曜日、まさに一触即発で「すわ、シーズン分裂!!」との憶測がとびかった中でのコメントは、問題の本質を付く含蓄のあるものだった。以下、その全録をお届けする。

◆問題はバジェットキャップそのものではない
木下美明TMG副社長(以下、木下) 先週くらいから、チーム代表の山科が日本に席を移してから、代わりに(私がFOTAの会合に)出てるんですけど、昨日の夜の1時まで(会合を)やっていて......。それで、ほんとに残念なんですけど、(F1に)「2シリーズ」をつくりたいという人はひとりもいないんですけど、結果的に、ああいうこと(場合によっては別シリーズを立ち上げる、といFOTA発表)になりました。

090628_kinoshita-2.jpg昨日(6月19日)、FIAの記者会見で、ロス(ブロウン/ブロウンGP)とかクリスチャン(ホーナー/レッドブル)が喋っていましたけど、あれにぼくらのいいたいことはほとんど出ている、非常にいい会見だったと思います。

いま、一般的にいわれてるのは、たとえば、コスト・キャップにメーカーが反対してるとか、メーカーの横暴だとかいった見方をされているところもありますが、それはまったく(今回の問題の)論点ではなくて、最大の論点は「ガバナンスがない」(FIAの独断になっている)ということなんですよ。要は(近年の)たび重なるレギュレーションの"迷走状態"を何とかしたい、という一点なんです。

それで、「コンコルド・アグリーメント」(=コンコルド協定=テレビ放映件などに関するチーム間の紳士協定)は、普通に考えられてるのは収益金の分配、そういうコマーシャルな部分だけが大きく捉えられてますけれども、あれ(コンコルド協定)はそれだけではなくて、ガバナンスの部分も含めて、三者の"バインディグ・コントラクト"なんですよ。三者というのは、FIAとFOM8 フォーミュラワン・マネージメント=F1権利関係を取り仕切る)と、そしてチーム(FOTA=F1製造者協会)ですね。ガバナンスはどうしますか、チームの権利は何がありますか、そういったことが全部決められている。

それがいま「失効」している状態なので、たとえば、いま"やられてる"みたいに、FIAがいつの間にか(F1の)レギュレーションを変えてる。本来ならば、たとえばテクニカル・レギュレーションは、決めてから「1月1日」が二回来ないと執行できないんですよ。そこの条文は残ってるんだけど、でも、使ってない、と。

あるいは、FIAのルールブックの最初のところに書いてあるのは、「F1に限っては、2年間の猶予を持って、テクニカル・レギュレーションを施行する」ということ。でも、いつの間にか、そこの条項がゴッソリなくなっている。じゃ「ない」という状態で、いまどうなっているかというと、FIAが決めたら、それがすぐに(F1の)レギュレーションになってしまう。

だから、いま決められているように、たとえば、来年から「四駆です」といわれたら、ぼくら、それを作らなくちゃいけない。こんな状態がずっと続いてました。

エンジンにしても、そうです。10気筒から8気筒になったのは、まだ許せるにしても、「8気筒から3年(そこで変更は)フリーズする」、それから「いや、4気筒ターボにする」、あるいは「10年フリーズする」、そして「6気筒のターボにする」とか、1年の間に5回くらい変わっている。

 KERS に関してもそうです。もっと実戦的に、(社会的にも)役に立つシステムを決めて、それを役に立つ時期に投入すればいいのに、ムリヤリに投入してしまう。だから( KERS には)どのチームも、すごいおカネを使ったと思いますよ。ぼくら(トヨタ)も、フタケタ億円は使ってませんけれども、それに近い金額は使ってる。一番使ってるチームは、70ミリオン(ドル=日本円で66億円)使ったといってる。それで結局、役に立たないシステムになっている。そういうことが、あまりに多すぎる!

◆問題は、三者間の「ガバナンス」なんだ!
木下
 それでいま、コンコルド・アグリーメント(テレビ放映件などのチーム間での利権関係の取り決め)が失効しているものですから、去年(08年)から、チーム(FOTA)側に、それ(FIA側の独断先行)を止める権利がない。この状態を、早く修正したい。だから、来年のエントリーする条件としては、コンコルド・アグリーメントに三者がサインすることというのを、ぼくら(FOTA)はいってる。

しかし、そこ(三者の合意が要ること)が認められないということで、もう、しょうがない、と――。お互いの妥協点をいろいろと探ったんだけれども、たとえば、FIAから最後に出されている妥協点というのが、来年からの四駆はヤメにするということですが、こういう(細部の問題は)のはハナシの本質ではないです。「本質」はもっと"奥"にあって、それらを見つけなくちゃいけない。

でも、そこ(本質論)を認めてもらえないんだったら、もう、しょうがない、と。昨日も、5時間、6時間くらい(論議して)、夜中の12時くらいに「こうしよう」と決めて。......で、決めたら、もう、すぐリリースを打とうということで、夜中に出しました。(会議に出ていた)全員で「新しい門出に乾杯だ!」ということで、夜中の1時にシャンペンで乾杯して、別れました。

----いま、FIAは、司法も立法も行政もというか、F1に関してのそういった"三権"を独占している?
木下
 もともと、ぼくらがFIAに望んでいることは、まあぼくら(FOTA)だけでなく、どのレース(カテゴリー)でもそうだと思うんですけど、それは「審判」ではないですか。
ルールを作るのは、レースの世界で、これまで世界的に何十年も行なわれてきた慣習でいうと、「参加者」が主体になって決めた案、それをFIAと話し合いながらルール化していく。

じゃ、いままでF1の場合はというと、FIAのなかの、F1の「ワーキング・グループ」にはチーム(FOTA)のメンバーは、ほとんど入っていて、そしてルールは、そこで決めます、と――。たとえば、全長を何ミリ長くするというのを、そのテクニカル・ワーキング・グループで決めたら、それを、F1の「コミッショナー」に流す。

F1コミッショナーのなかは、チーム・オーナーもFOMも、そしてサーキットもいろいろ入っていて、それを認めるかどうかを論議する。認めたら、それをワールド・カウンシルに持っていく。そのワールド・カウンシルあるいはFIAというのは、イエスかノーかの答えしかなかった。「諸元」は、そのテクニカル・ワーキング・グループで話して(検討して)いた。というのは、ここ(グループ)が一番(F1に)詳しいからですね。

でも、いま、このシステムが崩壊してるんです。ですから、たとえば、FIAの誰かが「じゃ四駆にします」と、ワールド・カウンシルに通したら、それが「ルール」として決まっちゃう。そうしたら、ぼくら(参加者)は、その四駆を作らなくちゃいけない――来年(のエントリー)をめざして。
それが、ぼくらの置かれてる状態で、これはやっぱり、正したい。

----コンコルド協定に関しては、98年のものを延長すればいいという考え方がありますね?
木下
 コンコルド協定は、いまいったように、三者のバインディングのコントラクトなので、FIAが、あるいはFOMが関心がある、重視するガバナンスの部分というのが、いろいろある(立場が異なる)んですね。ですから、三者が、同じ古いやつ(協定)で合意するということはないです。

----FOMというのは、実質的には、いま崩壊状態?
木下
 そうですね、一方でいま、(FOTAが)"まとまっている"というのは、モンテゼモーロ(フェラーリ会長でありFOTA会長)さんの功績が大きいと思います。あの人がいるから、これだけ、まとまっていると思うので。

----いまは、新シリーズを立ち上げるということで、準備をされてると思うんですけど?
木下
 いや、まだ「決断」してから24時間は経ってないですからね。......でも、いまでも、FOTAのすべてのメンバーは、FIAが歩み寄って、ふたたび、FIAといっしょにレースができればいいと思ってますよ。そして、まだ、その可能性はあると思ってます。

----来週に、ワールド・カウンシルの会合がありますね?
木下
 ええ、そこで(FIAが分裂回避に向けて)"戻って"くれれば一番いいし、戻ってくれないなら、(シリーズの分裂というのは)最悪の選択肢ですけど、まあ、しょうがないですね。

私がちょうどアメリカにいたときに、CARTとIRLが別れた頃、アメリカでレースをやっていたんで、2シリーズに分裂したときの混乱というのは十分知ってるんですよ。そして、その先がどうなるかというのも、だいたい予測がつくんですけど......。これ(分裂)は、みんなが一番採りたくなかった選択肢なんです。

----今年に入って、(FOTAに)払われるべきカネが払われなかったとか、そういうことはあるんですか?
木下
 昨日もそういう話しになったんですが、どれくらい? あれはどうだった?と聞いていくと、実際、すごい金額ですね。2006年くらいから、その(未払いの)話しが出て来て、2007年、2008年と、総額はかなりのものです。でも、やっぱりね、レースをやめる(別れる)とかいうのは、(われわれは)レース屋ですからね、誰の得にもならない話しで......。

----今回の"落としどころ"というか、ヨーロッパの人って、ケンカをしているようでも、実はしっかり意見を出し合って、話を前に進めているとか、そういう「会議」をしますよね?
木下
 いや、この2週間、その"落としどころ"を決めようと思って、ずっとやってきたんですけど、ヨーロッパの人の会議って、こんなに"長い"のかなあって(笑)。そういうのに、何回も付き合いました。すごいですよ、5時間とかね、エンエンと同じことを話しつづける。「同じこと」ですからね、5時間話してると、千回くらい話すわけですよ(笑)。それでも、これは"落ちなかった"ですね。

......でもね、ずいぶんチーム側(FOTA)は譲歩したと思いますよ。これ以上、譲歩はできないというところまで、ね。

----チーム側が歩み寄るということは、もうない?
木下
 ないですね。

----FIA側が歩み寄るしかない?
木下 ......か、別れるしかない!

----でも、チーム側としては、主催するのではなくて参加者でありたいですよね?
木下 
そうです。それで、ここ2週間くらい、彼ら(FOTA)と話していて思ったんですけど、ぼくら(トヨタ)って、まだ10年未満の選手じゃないですか。でも、20年、30年と(F1を)やってきてる人はいっぱいいるわけで、その人たちが抱えてる「F1を守りたい」という思い、「F1」という名のもとでレースをやりたい、こういう思いは、やっぱりすごく強いと思います。それは、日本人が日本人でありたいと思うのと同じくらいに、強いものでしたね。

ですから、なるべくなら、もとのカタチでやれるのが一番いいんですよ。F1の、その長い歴史をつぶしたくない。だからこそ、これだけ頑張って、いろいろ交渉もしてきたので――。ですから、繰り返しになりますけど(レギュレーションの)"迷走状態"を何とかしたい。(そういうぞんざいな扱いを受けるような)「俺たちは、虫けらではない」ということです。

----このFOTAの、あるいはトヨタ・チームの今回の行動について、トヨタの本社側では?
木下
 まったく、同じ考えです。

----F1あるいは新シリーズからの"撤退"も?
木下
 それはないです(笑)。
【STINGER / text by Iemura Hiroaki】




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