F1に燃え、ゴルフに泣く日々。/山口正己

本日の山口正己

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2016年6月25日

ル・マンを飾った全員に感謝

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スーパーGTのピットレポーターの井澤エイミーちゃんが、今回のル・マンを報ずるJ-SPORTSのテレビ特番で、ドライバーコメントの通訳を担当した。出しゃばるでもなく、的確に必要充分な通訳はとても心地いいものだった。

衝撃のレースがゴールした後、番組の最後にJ-SPORTSの中島秀之実況アナが、実況陣に感想コメントを求めた。その中で、エイミーのコメントがココロに刺さった。

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「中嶋さんのコメントは、訳したくなかったです」。涙を堪えたこのひと言に、2016年ル・マン24時間のすべてが込められていると思ってジンと来た。それは、彼女がキュートだからだけではない。

残り6分少々、シケインを立ち上がった5 トヨタTS050 HYBRIDのコクピットから、突然中嶋一貴の「I have no power!!」という悲痛な声が二度、繰り返されて届いた。耳を疑ったが、5 トヨタTS050 HYBRIDは明らかにスピードを失っていた。

エイミーのコメントが刺さったのは、その事態が悲しかったからだけではなく、彼女が中嶋一貴と同じ気持ちになっていたことをそのひと言で痛いほど感じたからだ。中嶋の悲痛な気持ちが伝わって、だから通訳したくなかった。それはトヨタ関係者全員の気分でもあり、そして観ている我々の気持ちでもあった。みんながひとつになった不思議な気分になった。

さらに、その瞬間は喜んでいたポルシェ陣営も、事態を冷静に認識して、トヨタの駿足に敬意を表明した。最大のライバルであるドイツのメーカーまでもが一体になったことに気がついた。

レースに出るからには、特に、ル・マンやF1のように、プロフェッショナルが技術の粋を尽くして世界一を争うカテゴリーでは、勝利が必須だ。プロモーションという役目を背負っているから勝たなければならない。しかし、勝てばいいのではないことを、今回のポルシェが、ライバルへのリスペクトとして表現してくれた。そして勝てなかったが、それを言わせたぎは間違いなくトヨタだった。

ルマン24時間の重い結末の直後、結果を伝える[STINGER]のニュースに、「トヨタが泣き、ポルシェが笑った」と書いた。確かにその瞬間はそうだった。特に突然のストップですべてが終わったトヨタ陣営は、まさしく泣きたくなるほどに落胆したのはいうまでもないことだった。そしてポルシェが18回目の勝利を喜んだのも間違いなかった。

しかし、ポルシェ陣営は、笑っていなかった。駿足トヨタTS050 HYBRIDの前に、負けを認識していたからだ。しかし、結果は結果。第84回ルマン24時間に勝ったのはポルシェ919Hybridであり、トヨタTS050 HYBRIDは破れた。

だが、レース終了から2日ほどは、悲願達成の直前に破れ去ったトヨタ陣営を思うと、なんともやりきれなかったのだが、やがて、各方面が落ち着きを取り戻して都度の気持ちが伝わってくる毎に、悲しい気分が清々しい方向に変わり始めていることに気がついた。

負けてよかった、というほど簡単ではないけれど、仮にトヨタが勝ったとすると、世間一般の印象に、『ルマン』がこれほど強烈に刻み込まれることはなかたと思うようになったからだ。

勝ったとすると、喜ぶのはマニアと言われる、つまりはすでにルマンやモーターレーシングをある程度以上理解している者たちのはずだった。しかし、今回の結果は、興味のなかった多くの人の心に響き、ル・マンやモーターレーシングがわずかながらしみ込んだと思えた。

ところで、ネットを中心に、この話題が溢れているが、その中に、「勝つまで辞めないで」という声があった。いやいや、勝つまでではなく、勝ったらスタート地点。

ゴールまで残り僅かになったとき、レースは何があるかわからないと思いつつも、今年は決まったと思っていた。そして、「もしかすると、勝ったらトヨタは辞めてしまうのではないか」との心配が頭をもたげて複雑な気分だった。

しかし、そうはならなかった。結果を受けた章夫社長が、「負けず嫌い」という言葉を使って、少なくとも来年のリベンジを誓ったからだ。来年勝ったとすると、今年のルマンで多くの人がルマンの厳しさや、普段ならアッという間に過ぎ去る24時間という時間が、テンションを張って過ごすには気が遠くなるほど長いことを知ったことで、その意義がより明確に認知されるだろう。

トヨタは、そこに向けてすでに開発作業を開始しているはずだ。そして、ポルシェも、アウディも、同じ気分で2017年に相まみえることになるだろう。

負けたからこその新しいルマンが見えた。その意味で、トヨタにもポルシェにも、そしてエイミーちゃんにも感謝したくなった。

photo by [STINGER]/Motor Press

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